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2007.08.06

歪んだ記憶の断片―ロスト・ハイウェイ―

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 「作品紹介」ということでしょっぱなに選んだ作品がこれでいいのかとちょっと不安になる。デビッド・リンチ監督の『ロスト・ハイウェイ』だ。  デビッド・リンチといえば、日本でも映画『ブルー・ベルベット』やドラマ『ツイン・ピークス』で一躍有名になったが、その続編映画「ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間」が不評に終わり、その約5年後に発表されたのが本作品となる。この映画は上映当時から話題となったが、一部からは大絶賛され、一方では駄作だと叩かれた。こういう映画は果たして「オススメ映画」としてふさわしいのだろうか・・・。

 もちろんこうして紹介している私はえらくこの映画に惹かれているわけであるが、一緒に見た友人は「訳がわからない」「気持ちが悪い」「どこが面白いのかさっぱり分からない」だそうで、挙句の果てには「2時間返して!」といった始末である。そんな映画をこれから紹介するのだから相当な覚悟が要る。しかし、この映画の魅力をうまく伝えることができそうもない。そういう映画だ。

 ヘッドライトに照らされたハイウェイ。白いセンターラインの点線が延々と流れていく。そこにデヴィッド・ボウイの切迫した歌声。ハイウェイを走っているだけのオープニング・シーンだが、それはどこか分からないところに落ちているような錯覚すらする。この「不安さ」に身を置く心地よさ。ここでこの作品を受け入れられるか否かが既に決まるような気がする。

 物語は閑静な住宅街から始まる。サックス奏者のフレッド(ビル・プルマン)が、自宅のインターフォンに出ると男の声がこう告げる。「ディック・ロラントは死んだ」と・・・。翌朝、妻のレネエ (パトリシア・アークェット)が玄関で封筒を見つける。中には1本のビデオテープ。再生するとそこに映っていたのは夫妻の暮らす家の玄関だった。翌朝も別のビデオが玄関先に。今度はなんと夫妻の寝室と、そこに眠る二人の姿が映っていた。

 自宅に調べにやってきた警察にビデオカメラは持っているかと聞かれ、フレッドはこう答える。

「記憶は常に自分なりに」
(I like to remember things my own way.)
「起こったとおり記憶したくないんです」
(How I remembered them, Not necessarily the way they happened.)

 このフレッドの言葉が表すように、この作品自体が彼の「変形した記憶」となっている。人間の記憶は必ずしも起こった通りに記憶されないということは知られているが、この作品の面白いところはそれを「変形した記憶」として観客に提示するのではなく、バラバラの記憶の断片をあたかも一連の流れの中でさりげなく提示し、それを観客に並び替えさせる点だ。そしてその記憶の断片は集めて並び替えたとしても、ぴったり繋がりそうで繋がらない。ひとつひとつのピースが微妙に歪んでいるのだ。結果的に見ているものに「変形した記憶」として残る。

 また、この映画は一見がミステリー仕立てとなっている。観客に謎解きをさせたがる。しかしそれを試みようとしていると、あと一歩のところでまた別の謎にすり変わる。そしてまた謎、謎。もうついていけない、と諦めかけたころ、ひとつのミステリーがリアリティと繋がる。謎が夢や妄想などではなく現実世界に裏打ちされるのだ。そして再び謎解きを始めると、それを嘲笑うかのようにさらに謎の奥深くに連れて行かれる。結果、観客はミステリーとリアリティ、虚と実の皮膜の間をいつまでもさまようことになる。このバランスの絶妙さがこの映画の最大の魅力であるように思うが、逆にそのどちらにも振り切らない中途半端さが人をいらつかせ、混乱させる。

 と、ここまで書いたものの、この作品を観ていない方には何のことだかさっぱりなんだろうな。いやいや、すでに観た方にもそうかもしれないけれど。いろいろ考えたら頭が変になっちゃうよ。そんな声が聞こえてきそうだが、乱暴な言い方をすればそれこそこの映画の醍醐味のような気がする。万人にはオススメできないが、私のように「不安定さ」を心地よく感じる人間にはたまらない作品である。(う)

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【タイトル】ロスト・ハイウェイ
【原題】LOST HIGHWAY
【制作国】 アメリカ
【製作年度】 1997年
【上映時間】 135分
【監督】 デヴィッド・リンチ
【出演】 ビル・プルマン、パトリシア・アークエット、ロバート・ブレイク、他